X線位相顕微鏡の開発と応用

透過格子を用いたX線位相イメージング技術は、球面波に対して機能するので、X線顕微鏡とも優れた相性があります。Talbot干渉計による位相イメージングで達成できる空間分解能では、モアレ画像を記録する方式であるため、格子の周期(数$\mu\textrm{m}$)より小さいものを解像することができません。これに対処するため、試料像を拡大させるX線顕微鏡との融合を行っています。その具体的なアプローチとしては、拡大投影型(projection microscopy)と結像型(imaging microscopy)が挙げられます。ここでは、後者について紹介します。

図1: SPring-8で構築したX線位相顕微鏡
図1: SPring-8で構築したX線位相顕微鏡
図2: 幼齢マウス耳小骨の位相CT(矢印は赤血球)。スケール:$50\mu\textrm{m}$。
図2: 幼齢マウス耳小骨の位相CT(矢印は赤血球)。スケール:$50\mu\textrm{m}$。

結像型X線顕微鏡では、レンズ機能を有するフレネルゾーンプレート(FZP; Fresnel Zone Plate)が広く使われていますが、これにTalbot干渉計を組み合わせ、SPring-8に構築しました(図 1)。これにより、空間分解能サブ$\mu\textrm{m}$で位相CTができるようになっています。慶応大学の松尾光一教授らとの共同研究により、数々のマウス骨試料の測定を行い、骨科学の研究に貢献しています(図2)[1]

当研究室では、FZP を搭載する実験室X線顕微鏡(Zeiss Xradia 800 Ultra)を導入し、それにX線透過格子を組み込み、位相イメージング・位相トモグラフィを可能とする開発も行いました。実験室X線源は干渉性がありませんが、Lau干渉計[2]と呼んでいる独自の光学系を融合させて位相イメージングモードを付加しました[3,4]。顕微鏡自体の空間分解能$50\textrm{nm}$ を保って位相イメージングが行えます。

なお、本機器は、東北大学の共用機器として登録しております。
https://ses.tsc.tohoku.ac.jp/eq/front.php?cont=eq_detail&id=488 (学内)
https://ses.tsc.tohoku.ac.jp/public_eq/front.php?cont=eq_detail&id=488 (学外)

図3: Zeiss Xradia 800 Ultra をベースに開発したX線位相顕微鏡。
図3: Zeiss Xradia 800 Ultra をベースに開発したX線位相顕微鏡。
  1. [1] H. Takano et al., AIP Adv. 10 (2020) 095115. DOI:10.1063/5.0016318 ↩︎

  2. [2] A. Momose et al., Appl. Phys. Express 4 (2011) 066603. DOI: 10.1143/APEX.4.066603 ↩︎

  3. [3] H. Takano et al., Appl. Phys. Lett. 113 (2018) 063105. DOI: 10.1063/1.5039676 ↩︎

  4. [4] H. Takano et al., Optica 6 (2019) 1012-2015. DOI:10.1364/OPTICA.6.001012 ↩︎