主な研究テーマ

X線Talbot干渉計

図1 X線タルボ干渉計の構成と撮影例。撮像例は直径1mmのプラスチック球のX線位相CT

19世紀前半の1836年、写真の父と称されるWilliam Henry Fox Talbotは、 波面がそろった可干渉光が周期的物体を透過して特定の距離だけ伝播したときに、 周期的物体と同じ自己像が形成されることを発見しました。 この現象はTalbot効果として知られています。

Talbot干渉計は2枚の回折格子をTalbot距離(Talbot効果が現れる距離)だけ光軸方向に離して配置するもので、波面センサとして使われます(図1)。2003年、当研究室において初めて硬X線領域のTalbot干渉計が実現しました。 X線位相イメージングへの応用が期待されており、生体軟組織やソフトマターなどの弱吸収物体の高感度観察に適用が可能です。(右図:マウス尻尾の観察例、下図:ウサギ肝臓組織の観察例)

X線結晶干渉計を用いる方法では、高輝度のシンクロトロン放射光の利用が前提になります。一方でX線Talbot干渉計ではスペクトル幅の広い発散光も利用でき、コンパクトな実験室X線源との組み合わせが可能です。さらに大面積化が技術的に可能であるため、病院で利用できる医用診断機器への実用化が大いに期待されています。しかしながらX線Talbot干渉計を実験室線源で実現するためには、空間コヒーレンスの要請からμmオーダーの光源サイズのX線源が必要です。そのため撮像時間が長時間になるという弱点があります。この弱点を克服し、通常フォーカスのX線源でも撮像を可能にしたのがX線Talbot-Lau型干渉計です。

X線Talbot干渉用の回折格子としては、重元素からなる極めてアスペクト比の高い構造体の形成が必要です。我々は兵庫県立大学高度産業科学技術研究所(服部研究室)との共同研究により、X線リソグラフィと金メッキ技術による開発を進めてきました。現在までに60mm角の大面積回折格子の作製が実現されています。

Talbot干渉計は位相敏感画像検出器であると捉えることができ、様々なX線撮像技術との融合が容易であることを意味しています。 その一つとして、X線顕微鏡への応用も進めています。すなわち、通常のX線顕微鏡の画像検出器部分にタルボ干渉計を配置することにより、 簡単に微分干渉X線顕微鏡とすることができ、これにより、X線位相コントラスト法の空間分解能向上(ナノ分解能)を狙っています。