主な研究テーマ

高感度X線顕微鏡の開発

X線は可視光と同じ電磁波の一種です。したがってX線用のレンズによって顕微鏡を構成することも可能です。顕微鏡の空間分解能の原理的な限界は波長で決まります。したがって短波長のX線を用いれば、オングストローム(10-10 m)オーダーの空間分可能の実現も原理的には可能です。しかしながら、X線用のレンズの作製は一般に困難で、これまでこのような原子スケールの空間分解能は実現されていません。最近の微細加工技術の進歩によって、10ナノメートル前後の空間分解能に対応できるレンズは既に実現されています。

X線の高い透過力を利用すれば、比較的厚い物体の内部を非破壊で、かつ高い空間分解能で観察することが可能です。しかしながら一般に空間分解能と感度はトレードオフの関係にあります。したがって空間分解能を上げると同時に感度を高める工夫も必要です。レントゲン写真と同様にX線の吸収を利用する方法では、主に軽元素によって構成される生物試料や有機デバイスなどを観察するのは困難です。我々はX線の位相を計測することによってこの問題の解決を目指しています。

下図は我々が開発した高感度X線顕微鏡の構成(図1)と、それによる撮像例(図2)を示しています[1][2]。ここでも位相計測のためにTalbot効果が利用されています。X線の位相を計測する顕微法としてZernike型X線位相差顕微鏡が普及しつつありますが、強位相物体に対して定量性がなかったり、ハロー状のアーチファクトが生じたり、などの問題があります。我々が開発した方法はそれらの欠点を克服したもので、将来有望な高感度X線顕微法の一つとして期待されています。

図1:Talbot効果を利用したX線位相差分顕微鏡の構成[1]

図2:Talbot効果を利用したX線位相差分顕微鏡による撮像例[2]。試料はSiemensスターチャート。位相差分像(ツイン像)(左)と位相像(右)。


[1] W. Yashiro, Y. Takeda, A. Takeuchi, Y. Suzuki, and A. Momose, “Hard X-ray phase-difference microscopy using a Fresnel zone plate and a transmission grating”, Phys. Rev. Lett. 103 (2009) 180801. [2] W. Yashiro, S. Harasse, A. Takeuchi, Y. Suzuki, and A. Momose, “Hard-x-ray phase imaging microscopy using self-imaging phenomenon of a transmission grating”, Phys. Rev. A 82 (2010) 043822.