物質内部を可視化する方法の一つとして、中性子ラジオグラフィがあります。中性子は物質に対する透過力がX線より高く、且つ、X線とは異なる相互作用を物質に対してもっているため、特徴的な用途で使われます。
中性子はド・ブロイ波長を持った波としての性質を有します。その波長はX線の波長と同等の大きさを持っており、X線位相イメージングのコンセプトを中性子ラジオグラフィに展開することが可能です。これを具体化するために、透過格子の開発から始めました。X線透過格子は、メッキ技術が確立している重元素である金(Au)で製作されます。しかし、中性子に対して金格子はあまり有効ではありません。中性子に対して際立って高い吸収係数を示す元素にガドリニウム(Gd)があります。これを用いて中性子格子を開発しました。X線でも中性子でも、吸収係数の大きい材料を格子に使うとしても、格子周期が数µmであることを考えれば、アスペクト比の高い格子構造を形成しなければなりません。また、格子面積は撮影視野を決めるので、できるだけ大面積で作る必要があります。
図1はGdの斜め蒸着法を精密化して開発した面積64mm角の高アスペクト比Gd格子です[1]。まず、D-RIEでSi格子を製作し、Siラメラの肩に矩形状のGdが堆積するようにプロ セスデザインを行いました。
この格子は、J-PARCのRADENにおける中性子位相イメージング装置や理研RANSの小型中性子源システムを用いた共同研究に使っています。
[1] T. Samoto et al., Jpn. J. Appl. Phys. 58 (2019) SDDF12. DOI: 10.7567/1347-4065/ab138d ↩︎