X線位相CTの計測では、試料に動きは無く、スキャン中は静止しているという前提に立っています。しかし、試料の構造に加えてその機能にまで関心が及ぶと、構造の動きを可視化する必要があります。CTが三次元画像を生成することに対し、時間軸を加えた四次元画像(三次元ムービー)を計測する技術として4DCTがあります。X線位相CTにおいてもこの方向性の開発を行っております。
X線Talbot干渉計は広いバンド幅のX線で機能するという特徴を持ちます。シンクロトロン放射光は連続スペクトルを持つため、通常はモノクロメーターを通して単色X線束として使用されますが、そのまま(白色シンクロトロン放射光)で使えば、極めて強力なビームなので、X線Talbot干渉計による位相CT計測を高速化が可能となります[1](図1)。
ただし、白色シンクロトロン放射光による試料や X 線格子への照射ダメージが問題となっておりました。照射ダメージによる変化なのか試料自体のダイナミクスなのか、明確な区別が困難になるからです。X線Talbot干渉計は、レイリーの1/4波長則と同じ考え方に基づけば、約10%のバンド幅を持つX線であれば、単色X線の場合と遜色ないパフォーマンスが期待できることがわかります。そこで、白色シンクロトロン放射光を25keV中心で10%バンド幅のビーム(通称、ピンクビーム)を生成する多層膜ミラーを、SPring-8のBL28B2に設置しました。これにより、画質をほぼ保ったまま、照射ダメージの問題を軽減できました。
ピンクビーム4D位相CTは、レーザー加工のモデルとして、レーザー照射下の高分子材料(ポリプロピレン)の観察に適用しました[2](図2)。レーザーによる融解界面の進展が位相CTの感度によって可視化されています。
[1] A. Momose et al., Opt. Express 19 (2011) 8423-8432. DOI: 10.1364/OE.19.008423 ↩︎
[2] K. Vegso et al., Sci. Rep. 9 (2019) 7404. DOI: 10.1038/s41598-019-43589-6 ↩︎